はじめに
内科の入退院を繰り返し、数年後にアルコール専門病院の入院、入退院、そして断酒会へという長い道のりがある。断酒の決断は早いほうがいいに決まっている。
三重県では専門医・内科医・看護師・ワーカー・保健師などでネットワークづくりをして、長い道のりを短くする成果をあげている。その中心である三重県立こころの医療センター(当時)猪野亜朗先生に活動について述べていただいた。(平成15年1月)
平均7.4年の「回り道」
あなたは断酒会に入会するまでに、肝臓疾患、潰瘍、糖尿病、膵炎、痛風、交通事故、ケガ、骨折など酒がらみの病気で一般病院のお世話になったはずです。そのとき、一般病院スタッフから、断酒指導や専門治療受診や、断酒会に行くようにと勧められた会員は非常にラッキーな人です。あなたは酒がらみの病気で一般病院治療を最初に受けてから、専門治療や断酒会につながるまでに何年かかったでしょうか。恐らく、あなたは相当の「回り道」をして、断酒会にたどり着いたはずです。その「回り道」の間に、あなたの健康状態は悪化し、職場や地域で信用を失くし、家庭の波風は確実にひどくなったはずです。
私達の調査では、専門治療にたどり着くまでに7.4年も「回り道」をしていました。
内科ですでにアルコール依存症に
今、三重県ではこのような「回り道」をなくすために、内科スタッフが頑張り始めました。私の病院のアルコール外来では、紹介率がついに70%になりました。要するに、7割の人が内科等の医療機関経由で専門治療につながっているのです。これは三重県の内科医等がアルコール依存症の患者に介入して「専門治療受診を成功させた結果」です。三重県アルコール関連疾患研究会が誕生するまでの紹介率はほんの数%でしたから、驚異的な増加です。KAST(久里浜式アルコール症スクリーニングテスト)を使った調査では、アルコール依存症の可能性の高い人は一般地域よりも一般病院では4.7倍も多いのです。早期治療のためには、一般地域の住民に働きかけるよりも一般病院患者に働きかける方が、非常に効率が良いのです。
アル症治療は早いほどよい
私は「アルコール依存症治療は早期治療が大切だ」とずっと考えてきました。筆舌に尽くせぬ患者や家族の苦しみの期間は出来る限り短縮されるべきであり、また、脳萎縮や脳の機能低下が生じていない早期なら、専門治療で回復軌道に乗せやすいと考えるからです。また、「回り道」が長いと、家族が燃えつきたり、怒りが大きくなり、家族や周囲の人々からの援助が得にくくなり、断酒を困難にしてしまうからです。
今、内科は変わろうとしている
私が知っている限りでも、宮城、東京、神奈川、三重、大阪、神戸、岡山、香川、愛媛、佐賀などの各地で、一般病院スタッフが専門治療と連携した取り組みを始めています。慶応大学、順天堂大学、慈恵医科大学の内科教授が呼びかけて、アルコール性臓器障害を精神科医と連携しながら進めていく東京アルコール臨床懇話会が始まっています。一般病院で断酒会員が協力してアルコールミーティングを持つ病院も少しずつ現れています。
内科スタッフに回復の姿を見せよう
お世話になった御礼にあなたの元気に回復した姿を見せることも内科医・スタッフの実地教育になります。そして、断酒会で回復したことや例会の魅力を語り、一度参加してみませんかとお誘いしてみてください。先駆的な地方では、アルコールミーティングをやっている一般病院があることも伝えてください。一歩でも二歩でも前進すれば、誰かが助かります。